大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和56年(行コ)17号 判決 1982年12月21日

控訴人(原告) 栗田直明

被控訴人(被告) 津島税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五二年一〇月二一日付で控訴人の昭和四八年分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定各処分を取り消す。被控訴人が昭和五二年一〇月二一日付で控訴人の昭和四九年分所得税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定各処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書四枚目表五行目中「ではなく、」の下に「しかも西里工務店に対し請負代金の三分の二以上に相当する金二一〇〇万円を支払済であるから、」を加入し、同一四枚目表八行目中「動」を「働」に改める。)と同一であるから、ここにこれを引用する。

一  主張

(一)  控訴人の主張

被控訴人が本件課税処分(一)、(二)をなすことは、権利の濫用もしくは信義誠実の原則に違反して許されない。

すなわち、控訴人は、西里工務店の債務不履行により請負契約の目的達成が不能となり、その結果、支払済の代金二一〇〇万円が損失に帰したほかに、工場再建築費用金八六一九万七〇〇〇円、昭和四九年七月一日から昭和五六年五月三一日までの営業上の逸失利益金二億六五六〇万円、同期間中の有料駐車場及び貸事務所賃貸による逸失利益金二一一一万五〇〇〇円、印刷機等の値上り差損金六三七一万円、現行の印刷工場敷地の売買不履行による手付倍戻金一五〇万円、合計金四億三八一二万二〇〇〇円の損害を被つたので、西里工務店に対して前記損害賠償請求訴訟を提起して来た。そして、控訴人は、昭和五一年五月以降被控訴人の所部の担当職員との間で措置法三七条に定める特例を受けるための接衝を重ね、その過程において本件建物については前記民事訴訟が係属しているのでこれを現実に使用することは困難であると見込まれ、その結果ぼう大な欠損を生じている旨説明し、また同年六月一二日に表示登記を経由して右職員から控訴人の所有であることがわかつた旨の言質も得ているし、さらには右発生した欠損の処理について指示願いたい旨の伺いも立てて来たものであるところ、もしその際に被控訴人側において適正な行政指導がなされていたならば、控訴人は前記損害を所得税法五一条一項に従つて資産損失として当該年度の必要経費に算入して申告することにより、本件土地の譲渡所得に対する課税も免れることができた。しかるに、被控訴人が、控訴人に対して適正な行政指導をせずに、いきなり本件課税処分(一)、(二)に及んだことは許されない。

(二)  被控訴人の答弁

争う。

二  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却すべきであると判断するが、その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、被控訴人が本件課税処分(一)、(二)をなすことは、権利の濫用もしくは信義誠実の原則に違反して許されない旨主張するので判断する。前掲各証拠及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、昭和五一年五月以降被控訴人の所部の職員に対して、措置法三七条に定める特例の適用を求めて接衝を重ね、その過程では本件建物について、建築請負契約の履行をめぐつて請負人の西里工務店との間に前記損害賠償等請求の民事訴訟が係属しており、いつ決着するかわからない旨説明しながら、他方で同年六月一二日受付で表示登記を経由したうえ、同年一二月三一日までにこれを取得する見込みがあるとして同条四項かつこ書に基づく取得期限の延期申請し被控訴人の承認を得た(この点は当事者間に争いがない。)こと、その後も被控訴人の所部の職員が民事訴訟の見通しなどを含め、右延長期限までの本件建物の取得見込みについて問い合わせたのに対して、控訴人は、民事訴訟の動向がわからないからその決着のつくまで措置法三七条に定める特例の適用に関する処理を待つてくれるか、もしくは係争中としての損失査定してくれるようにと応答したこと、右接衝を経た後に被控訴人は本件課税処分(一)、(二)をなしたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。なお控訴人は、本件建物について控訴人が前記表示登記を経由したところ、被控訴人の所部職員も控訴人の所有権取得を認める旨の言質を得た旨主張するが、これが事実を認めるに足る証拠はない。

右認定事実によると、控訴人が本件建物についてこれを昭和五一年一二月三一日までに取得する見込みがあると主張して、措置法三七条に定める物例の適用を求めて所定の手続を経由し、右取得をめぐる民事紛争の解決方法として西里工務店との間に損害賠償等請求訴訟を提起している事態につき被控訴人において、控訴人に対し当該紛争処理方策の当否並びに本件建物の取得及び損害賠償金による補てんを断念して、資産損失の必要経費算入に基づく修正申告するよう行政指導しなければならない理由はない。したがつて、被控訴人が控訴人主張のような行政指導をしないで、本件課税処分(一)、(二)に及んだことをもつて権利の濫用もしくは信義誠実の原則に違反する、との控訴人の主張には理由がない。

二  そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例